■Day-2 (午後3) 射出成形の金型工場を見学 [2014/12/09]

プリント基板工場でずいぶん魂を消耗したものの、気持ちも新たに本日最後の工場見学となる射出成形の金型工場に向かう。約1時間の移動で工場に到着。 時刻は17時50分、もうすっかり夕暮れである。


ここでは10名程度の作業員が、見るからに硬そうな金属を削ったりすりあわせたり、黙々と行っている。研削盤から、まばゆい切り粉が飛ぶ。まなざしは真剣そのものである。作業員はがきちんとマスクをしているのをみて、なんだか温かい気持ちになる。

壁際を見ると、いかめしいフライス盤が6台、NCなんかに負けないぞと言いたげに鎮座している。放電加工機は静かに金属を食んでいる。

日本において、型工場で働く人は総じて礼儀正しく、電気屋とは全然違う人種というイメージが強い。ここ深圳の型工場も同様、会釈するとまじめそうな笑顔を返してくれる。なんだか共通点を見つけたようで嬉しい。


射出成形の予備知識は全くなく、漠然と「型というのはべらぼうに高い」「設計には一子相伝のノウハウがある」というイメージだけを持っていた。同行した方に射出成形にたいへん詳しい人がいたため、ずうずうしくもいろいろと質問させていただく。その方によると、金型というのは中国でつくれば安くなるという単純なものではないらしい。金属ブロック部分だけでなく細かい部品がたくさん付いていて、それら一つ一つが高価なうえ、設計や組み立て、保管などすべてノウハウの固まりなので、綿密な打ち合わせができない環境で作れるものではないのだそうだ。

そもそも材料も工具も全部高価なものですから、人件費が多少安くてもね、と彼は言う。すこしでも安く作りたいなら、型そのものの加工コストなんて気にするより、成型しやすいように設計段階からきちんとノウハウを盛り込むことがよほど大切なのだそうだ。

中国なら、お年玉程度のお金を払えば試作用の金型くらいどんどん作れるしくみがあるんじゃないかと淡い期待を持っていたので、これはちょっと残念な事実である。やはり射出成形に魔法は存在しないのか。でも、それが実感としてわかったことも収穫である。


このあと、ホテルに戻って夕食会。キノコ料理専門のかなりお洒落な店へ繰り出す。

最初、木の枝みたいなものが入った薬膳スープが出てきてギョっとしたのだが、見た目に反して味はおだやか。キノコ料理も魚もどれもこれも恐ろしくうまい。なんとか日本にも出店してもらいたいものだ。


食事のあいだ、同じテーブルに座ったSeeedのエンジニアと、さっき見た基板工場の話になる。いやあれはすごかったよ、と笑う。相手もちょっと苦笑気味である。

日本にもプリント基板の通販はあるの?と彼は尋ねる。もちろんある。でも高いんだよね、と答える。へえ、高いってどのくらい?と彼が興味を持ってくるので、その場で日本のP板サイトの1-click見積にアクセスしてあげる。

50mm×50mm×t1.6mm・2層・5mil L/S・鉛はんだレベラ・片面シルク 5枚製造。見積もりボタンをクリックすると、2万8千円、およそ250米ドルと表示される。彼はその画面をのぞき込み、ちょっとのけぞりながらインクレディブルとつぶやく。なんだか少し勝ち誇ったようなドヤ顔になっている。FusionPCBなら9.9米ドル。まあ、確かにインクレディブルではある。


でも、と思う。日本のトラディショナルな会社はFusionなんかに注文できっこないんだ。日本のP板会社は月末締め・翌15日払いにちゃんと対応してくれる。Fusionはどうか。「Paypalで先払いします、米ドル建てなのでクレカの請求がこないと換算レートがわかりません、2ヶ月後に請求がきたら現金精算お願いします」なんて経理に言ってみろ。なんと言ってどやされるか。

ということを伝えたかったけれど、「支払いサイト」なんて言葉を英語でどう言うか、とっさにわかるはずもない(というかこれ和製英語なのでは)。しかたないので、ほぞをかみつつ I think so, it's incredible. と返す。まぁ自分で作る基板はFusionに頼んでるわけで、これでも間違っていないのだけれど。


刺激に充ちた2日目が終わろうとしている。お疲れ様でした。



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