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■Day-2 (午後3) 射出成形の金型工場を見学 [2014/12/09]

プリント基板工場でずいぶん魂を消耗したものの、気持ちも新たに本日最後の工場見学となる射出成形の金型工場に向かう。約1時間の移動で工場に到着。時刻は17時50分、もうすっかり夕暮れである。


ここでは10名程度の作業員が、見るからに硬そうな金属を削ったりすりあわせたり、黙々と行っている。研削盤から、まばゆい切り粉が飛ぶ。まなざしは真剣そのものである。作業員はがきちんとマスクをしているのをみて、なんだか温かい気持ちになる。

壁際を見ると、いかめしいフライス盤が6台、NCなんかに負けないぞと言いたげに鎮座している。放電加工機は静かに金属を食んでいる。

日本において、型工場で働く人は総じて礼儀正しく、電気屋とは全然違う人種というイメージが強い。ここ深圳の型工場も同様、会釈するとまじめそうな笑顔を返してくれる。なんだか共通点を見つけたようで嬉しい。


射出成形の予備知識は全くなく、漠然と「型というのはべらぼうに高い」「設計には一子相伝のノウハウがある」というイメージだけを持っていた。同行した方に射出成形にたいへん詳しい人がいたため、ずうずうしくもいろいろと質問させていただく。その方によると、金型というのは中国でつくれば安くなるという単純なものではないらしい。金属ブロック部分だけでなく細かい部品がたくさん付いていて、それら一つ一つが高価なうえ、設計や組み立て、保管などすべてノウハウの固まりなので、綿密な打ち合わせができない環境で作れるものではないのだそうだ。

そもそも材料も工具も全部高価なものですから、人件費が多少安くてもね、と彼は言う。すこしでも安く作りたいなら、型そのものの加工コストなんて気にするより、成型しやすいように設計段階からきちんとノウハウを盛り込むことがよほど大切なのだそうだ。

中国なら、お年玉程度のお金を払えば試作用の金型くらいどんどん作れるしくみがあるんじゃないかと淡い期待を持っていたので、これはちょっと残念な事実である。やはり射出成形に魔法は存在しないのか。でも、それが実感としてわかったことも収穫である。


このあと、ホテルに戻って夕食会。キノコ料理専門のかなりお洒落な店へ繰り出す。

最初、木の枝みたいなものが入った薬膳スープが出てきてギョっとしたのだが、見た目に反して味はおだやか。キノコ料理も魚もどれもこれも恐ろしくうまい。なんとか日本にも出店してもらいたいものだ。


食事のあいだ、同じテーブルに座ったSeeedのエンジニアと、さっき見た基板工場の話になる。いやあれはすごかったよ、と笑う。相手もちょっと苦笑気味である。

日本にもプリント基板の通販はあるの?と彼は尋ねる。もちろんある。でも高いんだよね、と答える。へえ、高いってどのくらい?と彼が興味を持ってくるので、その場で日本のP板サイトの1-click見積にアクセスしてあげる。

50mm×50mm×t1.6mm・2層・5mil L/S・鉛はんだレベラ・片面シルク 5枚製造。見積もりボタンをクリックすると、2万8千円、およそ250米ドルと表示される。彼はその画面をのぞき込み、ちょっとのけぞりながらインクレディブルとつぶやく。なんだか少し勝ち誇ったようなドヤ顔になっている。FusionPCBなら9.9米ドル。まあ、確かにインクレディブルではある。


でも、と思う。日本のトラディショナルな会社はFusionなんかに注文できっこないんだ。日本のP板会社は月末締め・翌15日払いにちゃんと対応してくれる。Fusionはどうか。「Paypalで先払いします、米ドル建てなのでクレカの請求がこないと換算レートがわかりません、2ヶ月後に請求がきたら現金精算お願いします」なんて経理に言ってみろ。なんと言ってどやされるか。

ということを伝えたかったけれど、「支払いサイト」なんて言葉を英語でどう言うか、とっさにわかるはずもない(というかこれ和製英語なのでは)。しかたないので、ほぞをかみつつ I think so, it's incredible. と返す。まぁ自分で作る基板はFusionに頼んでるわけで、これでも間違っていないのだけれど。


刺激に充ちた2日目が終わろうとしている。お疲れ様でした。



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■Day-2 (午後2) プリント基板工場を見学 [2014/12/09]

金属加工工場を後にして、バスで50分。15時40分にプリント基板の工場に到着。工場というよりは、工業団地全体がプリント基板企業の集合体のようだ。今回の訪中で最も楽しみにしていた訪問先である。

この工場は、ウエット工程と非ウェット工程の2つのセクションに分かれているらしい。 まず最初に、非ウェット工程のセクションから見せていただく。


入り口のトラックヤードを入ると、さっそく銅張り生基板を荷さばきしている光景に出くわす。これが噂に聞く定尺生基板というものか、といちいち感動する。実は一般的なプリント基板の工場を見るのは、今回が初めてである。

すこし奥に進むとNC制御の穴開け装置がずらりと並んでいる。基板の供給・取出しは手動である。ドリルラックにはいろいろな径のドリルが並んでいる。最も細いものでも0.3mmと、意外と太い。ここはあまり微細な工場ではないのかもしれない。隣にいる参加者が前置きもなく「意外と太いですね」と話しかけてくる。どうやら同じ肌感覚の持ち主のようだ。

稼働中の装置に近づいてみる。数枚の基板を重ねてドリルで穴を開けている。画面によると、装着されているドリルの径は0.4mmである。手元の時計でタクトを計ると、1穴あたりおよそ300ms。想像よりも速い。

日本に戻ってから最近設計した基板の穴数をみると344穴だったので、このときのスループットは100秒である。基板製造は穴開けが工程のボトルネックだと聞いていたが、なんだか拍子抜けである。


上の階に進んで、検査の部屋を見せていただく。女の子が数人、窓際に机を並べて目視検査をしている。1枚4秒程度で良・不良を判断している。良品と不良品の山の高さからみると、不良率は5%程度のようだ。私は自動検査装置の工法開発が本業なので、どんな不良なのか気になる。言葉のわかる人に聞いてもらったのだが、これは不良ではなく分けて置いているだけというような返答で、どうも判然としない。なんだかはぐらかされているような感じがする。もしかすると検査設備屋だと感づかれて、クビにされては大変と警戒されているのかもしれない。


この部屋には、プローブテスターも2台置いてある。専用治具で一括コンタクトするタイプで、ローカルメーカー製のようだ。別の部屋にフライングテスターもあるらしい。


さて、次にウェット工程のセクションを見せていただくため、道を挟んで反対側の工業団地に移動する。 工場に近づくにつれ、あたりの空気がどんどんケミカリーになってくる。我々はMakerにとっては、むしろ良い香りである。でも、もしここに嫁さんを連れてきたらと思うと、ちょっと暗澹な気持ちになる。なぜか警備員が中国語で怒鳴りながら追いかけてくる。どうすることもできないが、一応ちょっと早歩きにする。歩くこと5分、煤けた感じの建物に到着。目指すウェットプロセスのラインはこの建物の6階に敷かれているらしい。トラックヤードにある人荷兼用エレベーターに乗って6階へ上る。


このエレベーターは、いま思い出してもおぞましい代物だった。電灯の黄ばんだプラスチックカバーはすっかり割れて、そのむこうに薄暗い電球がみえる。長く保守されていないことは明白である。床はずいぶん錆びていて、あろうことか化学薬品でべっとりと濡れている。靴を履いていても、この液体が水でないことはちゃんとわかる。これは信頼感ゼロの機械である。 こんなのに乗るくらいなら歩いて登った方がいい。もし乗るにしても、全滅を避けるため1人ずつ試すべきである。

ああそれなのに、そんなものに我々は13人ぎっしりつめて乗り込んだのだ。乗ってからの異様な雰囲気は、ちょっと言葉で形容しがたい。下を向いて黙り込む者あり(もし落ちたら接地の瞬間にジャンプしよ…)、周りの人の体重を目測する者あり(全員で1トン超えてるんじゃ…)、無理に明るい冗談を口にして和ませる者あり(これディズニーランドの、ほらホーンテッド…)。

理由はともかく、一行の心がひとつになったと思えた瞬間だった。


祈りが通じて無事に6階に到着。強いアルカリ臭が鼻をつく。床は薬品でツルツルで、析出した結晶が粉をふいている。すごいところにきたものである。おそるおそる作業場へ足を進める。風呂桶と同じくらいの大きな槽が、たくさん並んでいる。槽には青い液体がなみなみと入っている。エアでバブリングされているため、辺り一面に青いしぶきが舞っている。

やにわ男が1人、槽から筏のようなものを手づかみで引き上げる。手から液が滴る。手袋はずいぶん短い。引き上げられた筏をよく見ると、銅箔色をした板がくっついている。青い色で描かれた基板のパターンも見える。なんとこれは現像槽だったのだ。いやはや驚いた。サンハヤトが二度見するレベルの素朴さである。でも、驚きが収まって冷静になるにつれ、ここで働く人の健康が心配になってくる。


おそらくこの液は単なる炭酸ナトリウムの水溶液で、致命的な害はないのかもしれない。さっきのエレベーターだって、結果的にはちゃんと6階に着いた。ぱっと見の見学者がどうこう言ってはいけないのかもしれないけれど、やっぱりこういうやり方って、どこか人道から外れているように思う。いつもFusionPCBで基板を頼んで、安い安いと喜んでいるけれど、その後ろでこういう過酷な労働が行われていたと思うと、なんだかずいぶんショックである。


たとえばFusionPCBが、「工場の従業員にマスクと長手袋を支給したいので、50円値上げさせてください」と言ったら、私は喜んで支払うだろう。コーヒー豆にフェアトレードというしくみがあるけれど、あれと同じ考え方である。プリント基板は農作物ではないけれど、フェアトレードの理念を導入してくれればよいのにと思う。

思えば、高速な直描露光装置の普及や安価なCADの出現など、複合的な要素によって実現した「プリント基板のネットオーダー」は、Makerの歴史に残るパラダイムシフトだと思う。松電子やOLIMEXといった黎明期を経て、FusionPCBに代表される中国への直接発注の時代になった。いまや、品質と価格の均衡点はだれもが満足できる水準に達している。そういう意味で、基板のネット製造は、もはや黎明期どころか普及期も通り過ぎて、消耗期・停滞期に入りつつあるのではないか。この優れたエコシステムを持続的に維持・発展させるためには、価格や品質にとどまらない、心に訴えかける競争軸を導入してもよいのではないか。現像槽に立ち向かう彼の短い手袋を思い出しながら、そんなことを考える。



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■Day-2 (午後1) 金属加工工場を見学 [2014/12/09]

バスに揺られること70分、14時10分に一つ目の目的地、金属加工工場に到着。

門の前に若いカップルが数組とおっさんが2人ほどいて、張り紙を熱心に見ている。数分後、みな一様に納得ゆかない表情を浮かべて去っていく。なにがあるのかと見ると、求人広告が貼ってあるのね。

来たれ溶接工、男女不問……

正社員月給1800元(3.6万円)・皆勤手当100元(2千円)。残業手当13.8元/時間。月22日・1日8時間勤務。寮完備。


さて、工場の中に入れてもらう。若干、全体的にうらぶれたイメージが漂う。奥へ進むと、そこに前回のレポートでも多くの人が話題にしていた、電池ボックスのスプリングを作る装置が稼働している。スプリングがスルスル出てくる。なるほど、おもしろい。

装置は完全にカムで駆動されており、NCのようなヌルい世界とは対極にある。ひんぱんな段取り替えなど望むべくもない、リジッドな男の装置だ。

隣には同じような装置がもう1台あり、1人の男が熱心にメンテをしている。その手つきを見ると、どうやらこの人はかなり腕の良いメンテマンのようだ。彼は工具を置くとき、音がしないようにそっと置く。カムを機械に取りつけるときも、ウェスで丁寧に拭っている。

ぜひ声を掛けて話を聞いてみたかったのだが、言葉の壁は厚く、写真だけ撮ってその場を離れた。


工場の雰囲気は、20年前の日本の町工場と大きくは違わない。違うのは、そこはかとなく漂う猥雑感である。

たとえば設備をいくつか並べる場合。日本ならまっすぐ等間隔に並べると思う。でもここでは、ばらばらな向きに並んでいる。空いたスペースに台を置いて、また空いたスペースに椅子を置いて、というように、計画というものがほとんど感じられない。 それでも、きちんとモノが作れているのなら、これはこれでいいのかもしれない。でもこんな状態を続けていたら、不良が出たときの原因究明とか、工程の改善とかできないのじゃないかと心配になる。


それはそうとして、この工場は本当にいろいろな種類の金属加工ができる。先ほどのようなスプリングの製造の他に、プレス、絞り、抜き、シャーリング、放電、切削、レーザー刻印などなど、もうここだけでインゴットから製品まで加工できるんじゃないかというくらいである。細かい品質を抜きにすれば、確かにここはスーパー金属加工センターだ。 従業員にしても、さっきのメンテマンをはじめ、わりとストイックに持ち場を守っている。プロという感じがする。

あと、なぜかレーザー刻印機の前に乳児をだっこしたお母さんがいた。だっこされているのは5ヶ月くらいの男の子のようだ。こんな環境で育った彼には、自然とMakerの血が育まれるに違いない。



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■Day-2 (午前) SeeedStudio社屋を見学 [2014/12/09]

この日は、午前中にSeeedStudio、午後からSeeedと関連のあるローカル工場を3つ見学する予定。

ホテルに朝食が付いていないので、買い出しのためホテル前のコンビニへ。 日本でいうコンビニおでんのごとく、店内調理のおかゆのようなものが売っている。 おいしそうにも見えるが、どうにもビビって買えず、日本ブランドの乾きモノばかりをセレクト。

朝8時30分にロビーに集合。おかゆのようなモノを手にしている方も多く、ポッキーなんぞ食べている者は皆無。ちょっとへこむ。 気を取り直して、高須さんが手配してくれたマイクロバスでSeeedStudioへ。これ、単独で来ていたらバスの手配なんてできない。 改めてこのツアーのありがたさをかみしめる。

SeeedStudioは改めて紹介するのもためらわれるほど、皆さんお世話になっている企業(だよね?)。 あのFusionPCBもSeeedのビジネス。信頼できる正しい英語と、近代的なデザインのWebページ。サービスも日々進化している。 確かに阿里巴巴なんかとと比べるとちょっと高いものもあるけれど、なんだかんだでSeeedを使ってしまう人もおおいはず。


バスに乗ること50分、9時20分にSeeedのオフィスに到着。

Seeedがアプローチする顧客の層分類と、その層ごとにSeeedが提供する商材について教えていただく。 この分類というのはSeeedの経営理念に関わる重要なことのようだ。すなわち、Seeedが分類する層ごと、たとえば

  • Dreamer:自分で回路設計ができない層には工作キットを
  • Maker:設計して製作するが、商用クオリティにはまだ達しないモノづくり層にはモジュール基板やP板製造を
  • Veteran Maker:商用クオリティに達するレベルの試作品を設計製作する層にはオープンパーツライブラリーを

というように、すべての層にアプローチする商材を整え、ある層の顧客を、一層上に引き上げる手助けをするのがSeeedの理念である、ということであった。 f:id:dickbruna:20141209093505j:plain:right,w230 なるほど興味深い。自分の注文しているものを考えながら、早く「10K+」の人物になりたいものだと考える。 意味がくみ取れなかったのは「オープンパーツライブラリー」というもの。質問の機会も逃してしまって、結局わからないままに。無念。


ここで重要なお知らせ。実は私は英語が超苦手です。このレポートにおける外国人の発言は、すべて顔色や身振りから抽出したものです。できるかぎり正確を期して記述していますが、そもそも大きく意味を取り違えている可能性が高いことをご承知おきください。

プレゼンを聞いて質疑応答の後、Seeedの社屋を見学。

社屋はビルの2フロアを借り切っており、オフィスと倉庫のフロアと、実装工場のフロアに分かれている。かなり広い。ビルの外見はそれほど新しい感じではないのだが、 中はたいへんきれい。


まずはオフィスフロアを見せていただく。


アメリカ経験のある社長のエリック・パンの趣味だろうか、壁に会社の経緯が貼ってあったり落書きがあったりと賑やかだった。メンバーも若い人ばかりで、開放的な雰囲気。日本のトラディショナルな会社の雰囲気しか知らないので、全く違う空気にちょっと感動。


次に実装工場のフロア。

SMDはマウンターで、スルーホール部品は手挿入・手半田で実装している。

中国を訪問して初めて見る工場だったので、まあこんなもんだよね、と思っていたのだけれど、いま考えると、中国とは思えない、しつけの行き届いたすごい工場だ。

それなのに、「この半田ごては偽物かもですね~」「あっホントですね~」なんてささいな中国っぽさを探しあったりして、本当に失礼なことをしました。

作業員の腕にある静電リストバンドと、局所排気設備に注目。日本でも徹底できているところがどれほどあるだろうか。

なお、しつけの行き届いた工場は深圳で3つ見た。1つはここSeeedで、あとの2つは後ほどでてくる。そのいずれも外国が絡んでいるのが興味深い。


いよいよ自動実装のラインを見せていただく。

半自動のクリーム半田印刷機。基板の投入取り出しをするために、オペレータが1人張り付いている。機械はよく調整されている様子

SMDマウンターはSAMSUNG社製。リフロー炉はローカルメーカー製のようだ。

AOIなどの検査機はなかった。目視で検査して、最後に動作確認すればよいという判断だろう。気持ちはわかる。


社屋を見せていただいた後、ビルの1階にある食堂へ。社員食堂的な雰囲気。まず最初にごはんが盛られ、そのあと、すきなおかずを乗せてもらうしくみ。おかずは8元・6元・4元で、それぞれ6種類くらいある。迷った末、8元の豚ナスっぽいのと、6元の鶏っぽいのをチョイス。自動的にスープが1カップついてくる。これ、なんだかべちゃっとしてイマイチな見た目なのだが、タレがトロりとごはんに絡み、文句なくうまい。合計14元だから300円くらい。安いとは言えないのかもしれないが、その味に大いに満足。



このあと、Seeedが入る建屋の前で記念撮影を行い(これがFacebookに載った)、午後の予定であるSeeedの関連工場へと移動するためバスに乗り込む。13時ちょうど。

午後から見学させていただく工場は3つある。金属系のNC加工工場、プリント基板工場、射出成形工場である。この網羅感のあるチョイスに高須さんのセンスを感じる。

あぁ、工場も普通にきれいだったし、ご飯もおいしいし、みんな活き活きと働いているし、中国って案外いいところだなぁ、など思いつつ、のんびりバスに揺られる。

でも、やっぱり中国はこんなのばかりじゃなかったのだ。この後、我々はショッキングな光景を目にすることになる。



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■Day-1(後半) 夜の電気街ツアー [2014/12/08]

16時30分、ロビーに降りてゆく。かなりの数の人々がすでに集まっている。なぜだかわからないけれど、一目でそれとわかるのが不思議である。

さっそく深圳の電気街「華強北 = Huaqiao Bei(ファーチャンペー)」へ繰り出す。先導はもちろん高須さんである。中国の雑踏に、ネコミミが少し飛び出ている。はぐれようがない。

ホテルは電気街から歩いてわずか5分という好立地。少し歩くと、あっというまにそれらしい雰囲気になってくる。

高須さんがモールに入ってゆく。我々も後に続く。まず圧倒されるのはそのスケールである。7階建てくらいの巨大なモールに、テナントがぎっしりひしめいている。

モールの中はラジオデパート的な感じで、小さな間口の個人商店がテナントとして入る形式。


売っているモノはまさに多種多様。携帯電話からGoProのようなカメラ、ヘンな時計まで、なんでもある。


3階へ上がってみると、USBメモリの内部基板だけを売る店、電源モジュールの店など、半完成品の店が増える。どうやら上の階に行くほど完成品から部品へと近づくようだ。4階へ上がると、予想通りコネクタや受動部品のテナントが入っている。  

ケーブル屋の店頭には、多様なケーブルが文字通り山と積まれている。


驚くべき事に、このような大規模のモールが、華強北と呼ばれるこのあたり一帯にいくらでもあるらしい。モールごとに特性があり、携帯電話やカメラのようなライトユーザー向け商品が主体のところもあれば、1階からいきなりチップ部品やプリント基板の店が軒を連ねるヘビーなモールもあるようだ。そんな話しをしながら、隣のモールにも足を運ぶ。なるほど、先ほどのモールよりも遙かに部品屋の割合が多い。このモールにはLEDに特化したフロアがある(「LED交易中心」と書いてある)。目が回ってくる。

  

 

なるほど、ここはまさにあらゆる電子工業の一大集散地と言って良い。理由はよくわからないが、不思議な感動を覚える。

よく見ると、部品系のお店は、店頭にある在庫を売るのが主目的ではなく、あくまで商社の窓口に近い存在のようだ。もちろん、店頭にある品を買うことはできる。しかし、ちょっと価格交渉をしてみると、すぐ「いくつ必要か」と聞かれる。1個だというと、一様に良い顔をしない。それではと、あるコネクタの店で「1万個」と言ってみたのだが、さほど動じる様子もなく淡々と価格を提示してきた。マス調達には慣れっこなのかもしれない。ちなみにそのコネクタ1万個は、日本で200個買うより安かった。


あるプリント基板の商社の前で皆でわいわい議論していたら、店の人がサンプル基板を出してくれた。ノベルティだという。

3mil L/Sというかなり細かいうずまきパターンが形成されている。両端には抵抗を測ってみよと言わんばかりのランドがある。ずいぶん挑戦的である。帰国後に測ってみたが、オープンもなく正常であった。やるな。


アキバのラジオデパートといえば不親切そうなオヤジがつきものだが、ここ深圳の店番は若い女の子が多い。しかし、彼女たちは単に店番をしているのではなく、みななにかを組み立てたり梱包したりといった作業をしている。ひどいのになると、フロアの床に座って半田付けをしている女の子もいる。なぜ狭い店頭でそんな製造をする必要があるのかわからないけれど、たいていの店でなにか作っている。

それ以外にも、カップラーメンを食べながら店番している兄ちゃん、乳児の子守をしている奥さん風の女性など、おおよそ電子部品商社という感じがしない。よく言えば敷居が低い、悪く言えば信用できない、でも仲良くなれば信用しあえる。そんな独特の雰囲気が、巨大なモールに層をなしてえんえんと広がる。


そうこうしているうち、あっという間にあたりは真っ暗となり、1日目のツアーはここまで。


初日は懇親会が開催され、総勢25人以上が参加した。みんなで江渡さんが予約してくれた火鍋屋「六婆串串香火锅」へ。

 

店の人も親切でにこやか。タレを自分で調合するのだけれど、中国語表記しかなく難しい。でも、最終的にどう作ってもうまいということがわかって、肯定的に解決。うまい。深圳、初日から最高だ。



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■Day-1(前半) 移動日 [2014/12/08]

1日目の早朝、大阪の自宅から深圳に向けて出発。

16時30分までに深圳のホテル(Tourism Trend Hotel)のロビーに行ければ、高須さんの案内で午後の電気街ツアーにいけるとあって、これはどうしても間に合わせたいところである。人もまばらな難波駅から、朝6時の特急で関西空港へ。  

今回は初めてLCCで(悪名)高いピーチアビエーションを使ってみることにした。 ただし、後にわかるのだが、この選択は大失敗だった。

すっかり夜も明けた関空を、バスで第2ターミナルへ移動。

出発50分前までに必ず搭乗手続きをしないとチケットが無効というルールを、厳格に運用することで知られるピーチ。出発は8時25分なので、7時35分までにチェックインしないといけない。それなのに……チェックインカウンターはすごい行列!

 

とはいえ、こちらも始発電車に乗ってきたのだ。並び始めたのは6時55分。まだ40分もある……と思いきや、自動チェックイン機の列が全然進まない。並んだままリミットを迎えたらどうなるんだろうとやきもきしながら、後の女子大生と不安を語り合う。

結局、リミット10分前にチェックイン完了。 毎回こういう思いをするのはいやなので、今後ピーチの利用はないかなぁ。

搭乗口へ続く通路は、簡素というよりまるで工場のよう。しかし、今回は工場を見に行く旅行なので、こういうのはむしろ心地よい。

飛行機は1時間ほど遅れたものの無事に飛んだ。明石海峡大橋をながめつつ、家から持参したポテトチップを食べる。のどが渇くが、お金を払わないと水一滴たりとも出てこない。つくづくピーチとは恐ろしい乗り物である。

4時間ほどのフライトで、現地時間12時15分ごろ香港国際空港に到着。

ここから深圳までの行き方はいろいろあるが、お勧めは空港からフェリーで直接深圳に乗り込む方法だという。混雑する香港→中国のイミグレーションを通らずにすみ、30分ほどの船旅で速くて快適に深圳入りできるフェリーを使わないのは情弱、というものらしい。当然これに乗りたい。のだが、なんとピーチで香港入りした人は使えないとのこと。なんだそりゃ。

わかってたらエバー航空にしたのにと思っても後の祭り。しかたないので、別の方法を探る。


香港から中国へ渡る国境はいくつかあるが、最もメジャーなのが「羅湖口岸」である。空港から、この羅湖口岸に行くには2つの選択肢がある。

ひとつは空港連絡鉄道で香港市街へ出て、そこから電車に乗り換える方法。 もうひとつは、空港からバスで羅湖の一駅手前の「上水」という駅まで行って、そこから電車に乗り換える方法。

ネットで調べてみたところ、用もないのに一度香港市街に出るのはマヌケであり、迷わずA43と書かれたバスで上水へ向かうべし、という記述を見つける。もちろん、ありがたく従うことにする。空港の到着ロビーでATMを探し、新生銀行のキャッシュカードで200香港ドルを引き出す。


バスはいかにも香港らしい2階建ての立派なもので、しかも上水まで40分くらい乗って500円とすこぶる安い。あらかじめ切符を買って乗るので、お釣りが出ないとか先払いか後払いかわからないというバス特有の心配もない。

 

お客は私のほかには黒人のカップルが一組と、地元民らしき高校男子の2人組だけとガラガラ。途中、目の覚めるような斜張橋を通るなど、素晴らしい景色の高速道路をひた走る。

高速道路のPAのようなバス停に1カ所止まった以外はノンストップで、13時45分に上水の停留所に着いた。バスは上水が終点ではないようだが、次の停留所名が電光掲示板にきちんと表示されるので安心である。しかも、ほとんどの乗客は終点まで行かず、この上水で降りるようだ。

上水から羅湖は電車で一駅、わずか5分ほどなのだが、運賃が400円くらいとめっぽう高い。ただ列車の本数は多いようで、10分も待たずにやってきた。これに乗って、あっという間に羅湖駅へ。車内は結構混んでいる。


さて、長蛇の列で悪名高い羅湖口岸。Wikipediaには「世界で最も通過旅客数が多い国境の一つ」と書いてあるし、どのサイトを見ても「混む」「時間が読めない」「疲れる」と良い記述を見かけない。そんなこともあって、ずいぶん覚悟して挑んだのだが、なんと5分もかからず通過できた。混むという記述は大規模なブラフのようなものかと思ったが、このあと1時間後に高須さんが通過したときは、もう少し並んだと言っていたので、単にラッキーだったようだ。


なにはともあれ、いよいよ中国である。香港と比べて明らかにけたたましくなったクラクションの騒音に身が引き締まる。駅構内で見つけたクレジットカードのATMで500人民元をキャッシングし、地下鉄へ向かう。

目指す燕南駅までは、緑の地下鉄で3駅、そこからオレンジの線に乗り換えて1駅。運賃は3元(60円)と安いが、自動券売機で100元札が使えない。しかたないので、近くのコンビニでコーラのペットボトルを4元で買う。切符はオレオのような丸いICトークンで、紙の日本よりずいぶん近代的である。ここで時計を見ると、14時30分。電気街ツアーの集合時間まで、まだ2時間ある。どうやら間に合いそうだ。


地下鉄の乗り換えも無事クリアし、ようやく「深圳商旅时尚酒店 Tourism Trend Hotel」に到着。バスもトイレもガラス張りで、綺麗なんだけど、なんだかラブホちっくな部屋である。時刻は15時20分。どうやら間に合ったようだ。日本円と香港ドル人民元を整理したら、いざロビーへ。深圳電気街ツアーに出発だ。

  



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ニコ技・深圳観察会に参加した

2014年12月8~12日に中国・深圳で開催された、ニコ技・深圳観察会に参加してきた。

この旅に参加した目的はいくつもあるけれど、一番大きな理由は、あのSeeedStudioを、あのFusionPCBの工場をナマで見られるチャンスなんて滅多にないだろ?という思いだ。

それ以外にも、

  • 街の中心街に、上から下まで電子部品屋のビルが林立してるって?それは絶対見てみたいでしょ!
  • いつもやってる設計ワークフロー↓よりも洗練された、速くて安いフローがあるのか?

    Eagleで設計→DigiKeyで調達→Fusionで基板→手半田で試作→国内で自動実装

  • 日本の1/3の値段でデジタルガジェットを作る中国の工場の秘密は何?
  • Maker活動の悩みのタネ「樹脂の射出成形」、安価にできる魔法はないか?
  • ぜんぜん知らない「シードアクセラレータ」って、いったいなに?

などなど、おもしろそうなものをイッキに見て・感じて・学べる、すごいチャンスだと考えたから。

結果として、これらの興味への答えを全部持って帰ることができた。 参加して大正解だった。企画してくださった高須さんに感謝してもしきれない。

以下、長くなるので、先に結論を。

Makerから見た深圳の特性

  • 深圳は「量産工場」と「Maker文化の集積地」の2つの顔を併せ持つ希有な街

    • どちらか一方だけなら他にもある
    • 日本なら、諏訪や東大阪が前者、アキバが後者に相当するのかな
  • 「電子部品商社の店頭販売」の存在が、効率の良いアイデア具現化を支える

    • 深圳周辺に膨大な量産工場が集積しているので、量産向けの部品流通が豊富
    • 小ロット生産者がおこぼれ的にサンプル品を売ってもらえるチャンスがある
  • 深圳はMakerを惹きつける、ある種のアイコンとして機能している

    • Maker活動の試作品を「商用クオリティ」に高めるためのしくみは、確かに深圳にある
    • しかし、それは深圳の街が持つ機能というよりも、深圳に集まったコミュニティの力による要素が大きい
  • 華強北の商社で高品質な正規部品を安定的に入手できるかというと、大いに疑問
    • 話題性で売り切る短寿命ガジェットを狙うならそれでも良い
    • そう考えると、中華ガジェットってそういうスタイルばかりだよな

深圳の街全般への印象

  • 明日からでも住めそう
    • たいへん猥雑な街ではあるが、治安の不安は感じない
    • 夜の一人歩きも不安はない
    • こんな治安がいいなら、一眼レフ持って行けば良かった
  • 高速道路や地下鉄など、公共交通網はよく整備されている
    • 都心の一部を除けば、極端な交通渋滞もない
    • 地下鉄はきわめて安価で清潔 運転頻度も高く、立派なホームドアもある

深圳周辺の工場を見学して

  • 工場が独自に改善サイクルを回す体制ができていない
    • 低賃金時代に教わったやりかたのまま、工程を改善できずに賃金だけ上昇したため、地域全体の費用対効果が低下して競争力が削がれつつある印象
  • 日本人やアメリカ人が関わった工場と、そうでないローカル工場では、見た目が大きく異なる
    • 床を作業スペースとして扱うかどうか、というデジタルなレベルで違う
  • 省力化や自動化は、ほんとにほんとに最低限
    • まだまだ人海戦術主体・高不良率体制
    • 自動化を進めたがる日本の工場に慣れているので、なおさら異様な光景に見える
  • 品質や安全衛生への取組みは特に遅れている 行政指導が有効に機能していない
    • 今回の見学で最もショックだったことの一つ
    • ケミカルへの暴露や怪我への対策はほぼなされていない
    • 無意味な行政指導を回避するための官吏対応に、時間や費用を割かれる(ジェネシス/藤岡さん)

私のMaker活動へ深圳を活用できそうか

  • いまの私の活動範囲では、うまく活用できなさそう
    • 最低、年1000台以上生産しないと、いろいろな意味でペイしない
    • 中国を大消費地とみれば地の利があるが、輸出するならメリットも希薄に
    • いっそのこと移住するのが最も有効活用できる道かも
  • 安価に射出成形を行う魔法は深圳にも存在しない
    • これは訪問の主目的だったので残念
  • ロットが小さく、品質にうるさい日本からの注文は「嫌われている」
    • 車やスマホなど、日本からの注文とは桁違いのロット
    • いま深圳で試作をやってくれるところは数えるほどしかない(藤岡さん)
  • アルバイトが安価・容易に雇えるため、小規模量産はバイトの手作りで対応できる
    • 「バイトの手作り生産」が、私が深圳を活用するとすれば唯一の解と思う
    • Dangerous Prototyping社が実際に行っている
    • バイトの給与はフルタイムで月4~5万円程度。
    • ただし、キビキビ働いている人は皆無
    • 離職率は「平均で年100%以上。8ヶ月持つかどうか」(日技城/西村さん)

参加者の方々との交流

  • みんな初対面なのに「深圳」「Maker」のキーワードで親密になれた
  • そうだよね、それいいよねって思える言葉が続々飛び交う夕食会に参加できた
    • 「Makerは基板で自己紹介するのが一番」(稲見さん)→全くその通り、準備しておらず反省
    • 「QFNは手で付きますよ」「自宅用にリフロー炉買いました」(五嶋さん)→QFN、チャレンジしてみます。でもリフロー炉は買えないなぁ…
    • トラ技に書いたらいいじゃないですか」(秋田さん)→今年は雑誌デビュー、チャレンジしてみます


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